ツギトリ

実際的な出版流通に即しつつも突飛で無責任なご提案。

書雑習合、その思想的意義

「なるほど、前回の記事で書籍と雑誌が似て非なるものなら統合しちゃえ、というのはわかった。でも結局それで、どんな効果が具体的にあるんだろう?」というお便りが先日、当社の方に寄せられたわけではありませんが、ともあれあった風にして、この御尤もな疑問にお答えしたいと思います。

まあ、特に目立ってお得な効果は無いんですが、損は防げるのではないか、というお話です。

{ 書籍 | 雑誌 }を間違って{ 雑誌 | 書籍 }として返品してしまった

あるある。いや、そんなに無いか? でもあったら、大変、場合によっては返品の返品、悪名高き逆走というやつです。又は、手数料みたいなん取られるかもしれません。ともあれ、書籍と雑誌を間違えただけで、余計なコストがかかってしまう。コミックなんかでよくあるという噂。

バーコードバトラーを使って返品しているとエラーを感知したりしますが、最近のトレンド「無伝返品」(無我の境地に至ることで可能となる返品手段のこと)だと、却ってスルーしてしまう可能性が高いのではないでしょうか。

{ 書籍 | 雑誌 }と思って予約したら{ 雑誌 | 書籍 }だった

あるある。いや、そんなに無いか? 書籍を雑誌と思い込む分には「雑誌コードが無い」ことにより、こいつは書籍だぜ、と気がつきやすいのですが、ISBNがわかったからって、ムックを書籍と思い込んだら……。「そういえばお客さんから予約のあったあれ、いつ発売だっけ? ちゃんと手配したんだけど」と調べて一週間前既に発売していたと発覚する瞬間、背中に走る悪寒たるや。

書雑鑑定士は廃業

しかし、こうした具体的な取り違いよりも、出版流通に携わる人は、本を一冊見る度に、書籍かな、雑誌かな、と思いを馳せることになる、この時間の無駄よ。裏返してバーコードや雑誌コードの有無を確認するまでもなく、ベテランなら一冊あたり一秒に満たぬ早さで判断つくでしょうが、本は大量、業界全体で費やされた延べ時間は、正に「失われた20年」に相当するのではないでしょうか。

斯くも不合理な話ですが、書籍と雑誌を統合しようという話は他で聞いたことありません。何故でしょう。思うに「こんな簡単なこと、間違えるわけない」という、業界人の矜持? が、疑問を挟むことすら許さなかったのではないでしょうか。

今や各種書類の記入項目に「性別:男・女」と設けることすらナンセンス。文化資本たる本が、書籍と雑誌の違いであーだこーだと嘆かわしい限りではありませんか(余談ですが、男性実用、女性実用、なんて分類もやばいっすよね。店頭にそう掲示されているわけではないけど、内部的にはこういう言い回しがまだあるとか)。

と言う訳で、明日から、とは言いませんが、明後日から、業界三者、手を握り合って、ベルリンの壁を、38度線を、ドーバー海峡を、軽やかに越えて行こうではありませんか。

最終奥義「書雑習合」

ツギトリ、最初にして最大のご提案。

要約

合理化による業務改善は基本のキ。書籍と雑誌を統合しちゃえ。

日出処の本

書店に流通する「本」には、大きくわけて二種類あります。何を隠そう「雑誌」「書籍」です。他に、それ以外の「第三商材」と呼ばれるようなものも流通しますが、それが第三と呼ばれるように、この二種類が中心です。

歴史的には、先ず雑誌の流通網があり、そこに書籍が乗っかる形で現在の出版流通が成立した、そうです。

出版を巡る統計も、書籍と雑誌にわけて計上され、流通上も違う伝票やシステムが用いられます。新刊雑誌はビニール袋に梱包され、書籍はダンボールのケースに入れられ、と、荷姿も違いますね。そして勿論、本そのものの見た目も中身も違います。

しかしながら、雑誌とは、書籍とは、結局のところ何でしょう。その定義とは?

雑誌とは何か

先ず思い浮かぶのは「定期刊行物であること」です。週刊、月刊、季刊、はたまた不定期刊などなど。周期は様々ですが、ある雑誌名のもと継続的に「号」が刊行されます。「号」は多くの場合、時を意味し、多くの場合、店頭に並ぶのは最新号のみです。バックナンバーを取り寄せることもありますが、過去の号は入手が難しくなりますし、そもそもあまり需要はありません。

あと、雑誌という字から考えて「内容が雑多であること」もその特徴です。単一の著者による雑誌というのは、あまり見かけません。まあ最近は「某責任編集」といった形で雑誌全体が特定の著者一色、というのはありますが、その場合も収録されている記事の方向性は雑多なはずです。

他には、単に見た目も違いますね。雑誌は書籍に較べれば、簡易な製本で、例えばカバーはありません。雑誌には広告も載っています。そのせいもあって書籍に較べて廉価です。

ともあれ、雑誌は見た目で何となく雑誌とわかります。

書籍とは何か

……まあ、これは「雑誌以外の普通の本」ですね。大別して二種類ですから、雑誌じゃない本は書籍です。ということにしておきましょう。

ひらけ! 雑誌と書籍!

さて、話は雑誌に戻りますが、よく知られている通り、前述した定義にあてはまらない雑誌も実際に多数あります。単体のみ刊行されたり、また単一の著者が単一の記事をあつかったり、と。カバーのある雑誌だってあります。なので、一般的な意味で厳密に「雑誌」は定義するのが難しい。

しかしながら、流通上の観点からは「何が雑誌」かの定義は極めて明確です。「雑誌コード」があるものが雑誌です。雑誌コードの無い雑誌、というものは、流通的な意味では、存在しません。もし、雑誌コードを持っている猫がいれば、それは猫であり雑誌とも言えます。

週刊少年ジャンプは「雑誌」ですね。雑誌コードがあります(29931)。では、週刊少年ジャンプの看板漫画「ワンピース」の連載をまとめた単行本は「書籍」でしょうか。ワンピースは尾田栄一郎による作品で、内容もワンピース一色、また長期に渡って読まれます。どうみても書籍のようですが、よく知られている通り実は「雑誌」です(81巻は47414)。多くのコミック単行本は雑誌です。

文庫は? 新潮文庫は毎月日刊行。本には番号が振り分けられている。軽装にして廉価。あれも実は「新潮文庫」「角川文庫」という雑誌なのでしょうか? いや、文庫は書籍でした。

雑誌扱いの書籍を「ムック」といいます。赤色雪男のことではなく、ブックとマガジンの合成でムック。といっても完全なハーフではなく、雑誌扱い、なので、明確に雑誌だといえます。

逆に書籍扱いの雑誌のことをガチャピン……とは言いません。ブッマガとも言わず、これは単に書籍扱いなだけで特に名称は無いようです(個人的にはガチャピンと呼んでいますが)。そもそも「書籍扱い雑誌」とも言われません。が、例えば大田出版のカルチャー月刊誌「クイックジャパン」などはそうです(もっと一般的な例もあったかと思いますが今思いつくのこれくらい)。

多くのコミックが雑誌扱いと前述しましたが「書籍扱いコミック」は一定数あります。これは、書店頭で貼り出される「発売一覧」にも、区分けして表示されるため、一般読者にも比較的馴染みのある用語ですね。

書雑習合

……と、長々と「書籍」と「雑誌」について連ねてきましたが、何が言いたいのかと言うと「もう、その区別やめようぜ」ということです。

書籍と雑誌が、形式的に完全分離しているならともかく、前述の通りそうでもない。ならば、かつて神と仏を習合したように、一緒にしてしまえば、流通における手間も軽減するというもの。本地垂迹天照大神大日如来といった按配で、おれがあいつであいつがおれで書籍も雑誌もつまるところ「本」

こういうと「いや、雑誌と書籍は違うんだ」という話になるでしょうが、おにぎりとおむすびだって、当人に言わせれば全く違う代物でしょうが、その差を追い求めてコンビニで売り場を二箇所確保するってのは手間な話です。

他にも多分、返品期限やら正味の問題なんかもあるんでしょうが、宇宙も開闢はや138億年目、種別で区分するより、1冊1冊にコードを与え(雑誌にISBNをつけるも良し、書籍に雑誌コードをつけるも良し、新たなるコードを与えるもよし)それらを設定すれば良いだけの話。

本の売上が減少する中、雑誌だ書籍だと内部分裂している余裕はないはずです。ここは一つ、宇宙人が攻めてきた、ということで、資本主義も共産主義も手を取り合って、総力戦と洒落こみましょう。

それよりかむしろ、流通上はひたすら「判型」のみ区分していけば合理的ではないでしょうか。内容的な種別ではなく。これはまた別の機会に。

はじめまして。「ツギトリ」です。

はじめまして

「ツギトリ」は、実際的な出版流通を見据えつつ、突飛で無責任なご提案を繰り広げる、正体不明、謎の秘密結社です。このたび、しめやかに爆誕致しました。

http://tgtr.kiwamari.org/

出版不況が叫ばれて久しい中、まるで売上と反比例するかのように、本を巡る言説は何故か人の興味を引き続けています。紙の本に対する思い入れや、書店という空間への愛、新しい時代の図書館に対する是非、などなど。逆に「時代遅れ」「これからは電子書籍」と(ランプに石をぶつけるように)否定的に言い放つ人も、何処か嬉しそうです。

さて、本を巡って著者、編集者、書店員、読者、評論家たちのご意見はよく見かけますが、それに較べれば現実的な流通面への言及はあんまり見当たりません。あるにはあるのですが、今度は逆に現実的過ぎて、前述のような一般的な「本への関心」層との接続があまり無く、切ない現状分析に留まりがちです。

と言うことでツギトリは「実際的な出版流通」に即しつつ、その現場にはいない無責任さを活かした、これまであまりなかったであろう各種のご提案を致します。

名前の由来

出版物の卸問屋のことを「取次」と言うそうです。取り次ぎ、という言葉自体はごく一般的なものですが、例えば「取次」で検索すると殆ど出版取次のことが出てくるように、取次といえば出版取次を指す程、業界独特の言い回しみたいです。

ということで、当方は自らの立ち位置を流通を担う取次に倣い、言葉をズラして「ツギトリ」と名乗ることにしました。安直ですが、覚えやすくて良いでしょう。

対象の読者

業界の人にとってはわかりきった話か非現実的な話でもあり、かといってそうでない方にはどうでもいい話でもあり、なんともかんともではありますが。

ご利用案内

無いとは思いますが、当ブログに載せている各種案はご自由にご利用・実行下さいませ。事前連絡する必要はございませんし、また利用に際してツギトリ案であることを表記する必要等もございません。

免責事項

当社の主筆は数ヶ月に一冊ぐらいの頻度で漫画を買う程の読書家であるだけでなく、以前、出版物を配送するトラックの給油所に勤めておりました。我が国の出版流通の一助を為した自負はありますが、まあ、控えめに言って門外漢です。出版流通に関する知識は、窓を拭く時に運転手との雑談で得た程度ですので、間違いも多数あろうかと思いますがご容赦下さい。また不明な部分は適当に嘘も織り交ぜておりますので、このブログはフィクションです。真に受けませんよう。掲載案を実行して損害を負っても、責任は負いません。

社員募集

あなたもツギトリで宇宙を感じてみませんか? ツギトリは趣旨に賛同する方を募集しています。条件は「実際的な出版流通に関する見識を持っている」のみ。出版業界の各所に所属のある方も勿論歓迎ですが、当社内では永世中立にてお願い致します。